安定な10MHz周波数標準器を求めて

秋葉原・趣味の店  マイクロ・パワー研究所  高橋 淳
モリサカ・ラボ  森榮 真一

●はじめに
アマチュア無線を始めて、最初に手にする測定器はテスター、周波数カウンター、オシロスコープなどがあります。
徐々にスキルを上げ測定器類も増えて来ると、正確さを求める人も多くなるのではないでしょうか?
今回は安定な周波数標準器を探している方に、入手しやすいGPS受信モジュールを利用した10MHz
周波数標準器を提案します。

一般に-9乗、-10乗以上の高精度の校正を行う場合は、それ以上の確度が得られる基準器を用意する事は困難です。
例えば、周波数カウンターの基準発振器の校正を校正機関に依頼すると、周波数カウンターの取得価格よりも高額になってしまう
場合もあり得ます。
なるべく安価で校正確認が不要(メンテナンス・フリー)な標準器が理想的ですが、この記事が参考となれば幸いです。
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周波数標準器は用途によっていろんな種類があります。
水晶やルビジウムを内蔵した標準器以外に、標準電波を受信して内部の発振器を同期させて出力するタイプの
周波数標準器もあります。

●水晶周波数標準器 校正が必要な2次標準器

画像:TOYOCOM  TC0-612L 内部に使用される水晶発振器の一例
恒温槽( オーブン )内蔵の水晶発振器を採用している機種が大部分を占めます。
-8乗から-10乗クラスの製品が多い様です。
10MHz出力以外に、5MHz/ 1MHz / 100kHzなどを同時に出力する機種もあります。


●ルビジウム周波数標準器 校正が必要な2次標準器

画像:SRS  FS725 
Microsemi FTD社の原子周波数発振器CSAC( SA.45s )は超小型(16cc、35g)で、低消費電力(最大140mW)を実現した製品で
より小型化が望まれる機器に組み込まれています。
最近、(独)情報通信研究機構ではイオントラップ型マイクロ波原子時計が開発され、ルビジウム標準器の
5倍の精度を実現しているそうです。  

●セシウム周波数標準器 校正が不要な1次標準器


Microsemi
FTD社( 旧、Symmetricom社、Agilent社) 5071A
世界で最も使用されている商用セシウム1次周波数標準器で、多くの研究機関などで活躍しています。
商用の標準器以上を目指すには、設備の維持・管理、費用と技術面で個人が所有するにはかなり難易度が高いと言えます。
国家標準で使用される
セシウム1次周波数標準器は設備が大掛かりで、内部の共振器にサファイアを採用し10GHzでの帯域幅が
1Hzと言う急峻な特性を有する物もあります。
この他に、国家標準で使用される様な水素メーザ標準器や光格子周波数標準器、カルシウムイオンを利用した光周波数標準があります。
現在、10の-18乗程度までは確認されているそうです。
国際キログラム原器を廃止し、物理の基礎的な普遍定数に基づく新しい定義が
光格子周波数標準器(光格子時計)の出現により
技術的に可能になってきました。 
既にメートル原器はレーザーに
置き換わり、キログラム原器も暫くすれば周波数で置き換えられる事になるでしょう。
周波数というのは、奥が深いものなんですね。

電波を受信して周波数標準器とするタイプには、以下のような製品があります。

●長波J J Y同期 周波数標準器 5MHz / 10MHz
1940年1月30日に
短波帯標準電波局・JJYが開始され、2001年3月31日に廃止されるまでアマチュア無線界でも周波数標準として
受信機の周波数合わせや、周波数カウンターの基準周波数校正用として利用されて来ました。
短波 JJYの廃止後は、福島県おおたかどや山から40kHz、佐賀県はがね山からは60kHzの長波JJYが発信されています。
40kHz / 60kHzなど長波の地表波については、安定な伝搬特性が得られることが知られています。
雷雲の発生や地電位の変動による雑音や、電離層変動に伴 う擾乱あるいは伝搬路の変化によって発生する位相測定のズレなどが問題になります。
 
余談になりますが、JJY電波発信地から受信機設置場所の間で地殻変動等があれば位相が乱れるので、地震の観測にも利用ができます。
室内ではパソコンや電子機器で使用するスイッチング方式のACアダプターからのノイズで、電波時計の同期が取れない等の問題もあります。

長波JJYは主に電波時計の自動修正用として利用されていますが、短波JJYとは違いそのままでは周波数校正用としては利用出来ません。
専用の受信機が必要になります。


TRACOR  599K   VLF/LF受信機 
長波JJYを常時受信し外部から入力した水晶発振器などの位相を比較して、確度をチャート・レコーダーの傾きから求める事が出来ます。
代表的なメーカーとして、米国TRACOR社 599Kや900Aなどがあります。
周波数標準器と言うよりも、外部発振器の確度検証用受信機と呼ぶ方が適切かも分かりません。

国産でも、長波JJY
の信号に常時同期して周波数標準器として利用出来る製品もいくつかあります。


日本通信機 7572B 40kHz / 60kHz JJY同期受信機

これは自宅で使っている電波時計受信機で、JJY同期した10MHzが得られます。
この受信機のアンテナは2.5mのプリ・アンプ内蔵のホイップですが、バー・アンテナを使用している製品もあります。
受信出来ない( JJY同期が出来ない )状況でも、同期時に設定された周波数制御電圧を維持したルビジウム発振器から10MHzを生成します。

ロランC( 100kHz )同期の周波数標準器 
   沖縄県国頭郡東村の
慶佐次ロランC局が平成27年2月1日に廃止され、日本のロランCは終了になりました。
 
米国SRS社 FS700が有名で、外部から入力した10MHzの周波数確度も表示される様になっています。


 SRS社 FS700


GPS同期周波数標準器
GPS衛星の周波数は1575.42MHzで直線性に優れマルチパスの影響を 受けにくく、大気中の伝搬距離を長波JJYと比べてより短くできるので
影響を小さくできます。
その反面で飛行機や鳥の群 れ、降雪、豪雨などで擾乱を受けやすいとされています。


多くの機種はRS232Cを介して設定したり、衛星の補足状況等が確認出来る様になっています。

携帯電話基地局に設置された10MHz周波数標準器が大量に放出された時期が有りましたが、最近はあまり見かけない様です。


Trimble社 Thunderbolt これも一時期大量に放出された機種です。
RS232Cを介して時刻表示などができるディスプレイを取り付けています。
備考:この記事に併せて製作したTrimble社 Thunderboltの購入先も文末に記載しています。
   同じ物を入手したい方は、直接コンタクトしてください。
   但し、ケースは各自で揃えないとだめです。
   


     ARBITER SYSTEMS社
   1083B 本体のみで設定が出来るスタンドアローン型


GPS衛星の補足情報を見る事が出来ます。 10個の衛星が見え、9個を補足しています。


オプションを追加すると、外部から入力した1/5/10MHzの偏差、アラン分散値が表示されます。

内蔵されている発振器をオプションでTCXO、DTCXO、OCXO、ルビジウムなどを
選択出来る機種もあります。
GPS信号を基にする以外に、地上デジタル信号の一部を取り出し1PPS/10MHz同期信号が得られる製品もある様です。
アマチュアの世界でも割と多くの方が、メンテナンス・フリーで高確度が得られるGPS標準器を利用している様です。
特にマイクロ波やミリ波の送信部には高次逓倍器を使う関係で、基準周波数の確度が重要となる為に人気があります。

e-trace  GPS遠隔周波数校正システム 校正が不要な特定2次標準器
茨城県つくば市にある独立行政法人 産業技術総合研究所・計量標準総合センター( 以下、NMIJ )と同じGPS衛星を同時に観測し、
GPS L1 C/A code信号を仲介とするCommon-view法で国家標準と校正対象物との周波数差を求める方法です。
校正対象となるのは、水晶発振器、ルビジウム周波数標準器の他にセシウム周波数標準器も含まれます。
一般に市販されているGPS同期周波数標準器は、GPS衛星からの信号を基にしているだけなので補正が出来ません。
GPS遠隔周波数校正システムはインターネット経由で国家標準( NMIJにあるセシウム1次標準器 )との時刻差を計算し、自動で差がゼロになるように搭載している発振器の周波数を補正します。
これにより内蔵している発振器は国家標準に同期し、高安定な信号が使用できます。
また、ネットワークの不良時は自動でGPS同期に切り替わるため、安全性も保たれています。
最大の利点はシステムの設置場所で周波数校正作業が完結され、校正事業社に移送し戻ってくるまで校正が出来ない不便さが解消されます。
1ヶ月ごとにJCSS校正証明書が発行される( 筆者の標準器はおよそ1E-13 )ので、高精度の10MHz周波数標準の供給が可能になります。
商用セシウム1次周波数標準器よりも安価で、手軽な運用が出来るe-trace GPS遠隔周波数校正システムはメンテナンス・フリーで
利用出来る最適かつ最強のシステムと言えます。





2014年11月7日から12月7日までの安定度のグラフ



筆者はNMIJの周波数クラブ主催のe-trace遠隔周波数校正装置の第一回実証実験に参加( 2007年9月に8社が参加 )しました。
実験の第一グループで試作機のバグ等がありましたが、概ね予想通りの結果が得られた様です。 
※文末の引用先・文献等をご参照ください。
実際に使用してみると、確かに便利そのものです。 値付けされた-13乗クラスの精度が、手元にあるのは良いものです。



第一回実証実験に使用したe-trace遠隔周波数校正受信機

筆者は(独)産業技術総合研究所の技術移転ベンチャー企業であるフレックタイム社が開発したFT-001Sを導入しました。
2015年1月現在、国内の校正事業者、測定器メーカ等の約60社が利用しています。


Freqtime社 FT-001S   ルビジウム発振器内蔵タイプ
外部発振器時刻比較機能(時刻比較モード)に切り替え、10MHz または1PPSを入力すれば時刻比較が出来ます。
このデータを使用することで、外部発振器を使いながら校正を行うことが可能になります。
従来の校正期間に持ち込む校正よりも、はるかに時間的コスト、運搬コストの軽減が出来ます。

現在、実験室にある測定器には分配器から接続しています。


2015年2月20日 動作状況が分かるLCDパネルを追加 設置前の作業中


NMI-DO( 国家標準同期モード )で稼働中。

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ここからは、モリサカ・ラボ GPS/1PPS同期の10MHz-OCXO製作の記事  
WORD / PDFは同じ内容です。
 読みやすい方を選んでください。
掲載される前の原稿なので、一部内容が異なります。

QEX_2014_feb_141217.doc

QEX_2014_Feb_141217.pdf

こちらで製作した完成ボードは、¥78,000 税別 送料が別途加算されます。
納期は、約2週間掛かります。
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引用先、文献等
●JEMIC 計測サークル技術専門部会   校正と較正の違い
    http://www.jmct.org/calibration/calibration.html

●ARBITER SYSTEMS  MODEL:1083B  製品カタログ
 
http://www.arbiter.com/catalog/product/model-1083b.php#tabs-2

e-trace時間周波数遠隔校正端末装置 FT-001

 周波数校正に関する機材など
〒300-3261 
フレックタイム株式会社
茨城県つくば市花畑3-32-13高塚建設工業ビル202
TEL. 029-886-8848   FAX. 029-886-8768
http://freqtime.co.jp/jp/index.html


●標準電波を利用した遠隔周波数校正装置
 http://www.ekouhou.net/標準電波を利用した遠隔周波数校正装置/disp-A,2010-54265.html

(独)情報通信研究機構  次世代時刻周波数標準グループ
 最先端の周波数標準器の開発等の情報が得られます。
 http://www2.nict.go.jp/aeri/sts/afs/index.html

産業技術総合研究所・計量標準総合センター 周波数クラブ
(独)産業技術総合研究所内に併設されている計量標準総合センター(NMIJ:National Metrology Institute of Japanの頭文字)は、
日本の国家標準を決める機関です。  
米国ではNIST、イギリスではNPL,、ドイツにはPTBと呼ばれる同様の機関があります。

http://www.nmij.jp/~nmijclub/freq/freq.html
http://www.nmij.jp/~nmijclub/freq/docimgs/2_2_2_20080131.pdf

●1PPS同期10MHz周波数標準器の技術的な説明・問い合わせは、モリサカ研究所まで。 
    http://morisaka-lab.jp/
               info@morisaka-lab.jp

1PPS同期10MHz周波数標準器は、マイクロ・パワー研究所で販売しています。
 Freqtime社FT-001S e-trace専用受信機も取り扱っています。
 マイクロ・パワー研究所 10:00 〜 17:00  定休日:木曜日・祝日
 〒101-0021東京都千代田区外神田1-10-11東京ラジオデパート1F

     http://mpl.jp/        info@mpl.jp

Trimble社 Thunderboltの入手先・・直接コンタクトしてください。
地方発送もして頂けるそうです。 住所・氏名・電話番号などを明記してください。
金子さん kaneko-ele@b.mail-box.ne.jp


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